遺言書の作成

相続が開始すると、相続人が法定相続分に従って遺産分割協議をすることになります。

生前、被相続人が、遺言書を作成しておくと、遺言書の効力が優先します。適切で配慮の行き届いた遺言書を作成することにより、被相続人が相当と考える相続を実現したり、遺産分割協議における相続人間の紛争を防いだりすることも可能です。

遺言書の作成が特に必要な事例

1,財産承継を考える者に相続権がない場合

被相続人に内縁の妻がいて、その者に財産を残したい場合、又は、被相続人の長男が先に死亡していて、長男の嫁に財産を残したい場合。(財産を残したい者に相続権がない。)

2,遺産が不動産のみの場合

遺産が不動産のみの場合、遺産分割協議の際に紛争になりやすい傾向です。被相続人が生きている間にできれば推定相続人の同意を得て、利用処分について考えておいた方が良いかと思われます。

3,子がいない夫婦のみの場合

配偶者の一方の死亡により、配偶者は、配偶者の親(三分の一)と、親が死亡している場合、被相続人の兄弟姉妹(四分の一)と相続関係になります(民法900)。関係が円満であるのなら問題はありませんが、そうでない場合は考えておいた方が良いと思われます。

4,遺産分割協議が困難な関係である場合

先妻との間に子がいて、後妻もいる場合では、先妻と後妻との間の協議は困難なため、遺言書により遺産分割協議を経ることなく財産を承継させる必要性が高いと考えます。また、正式には離婚していないものの別居中で婚姻関係が事実上破綻している場合で子がいない場合は、被相続人の親又は兄弟姉妹と配偶者の協議は困難であるため、遺言書作成により遺産分割協議を避けることが望ましいと思います。

5,法定相続人の行方が不明な場合

遺産分割協議の際に、行方不明者のために不在者財産管理人の選任などの手続きを経る必要があり、余分な費用や時間を要することを避けるため遺言書を作成し処理する必要性が高いと思われます。

6,事業を承継するものに事業用財産を承継させたい場合

承継する者とその兄弟姉妹で事業用財産を分割すると事業が成り立たない場合、事業承継者に財産(株・会社敷地・工場等)を集中させる必要がある場合。

7,法定相続人がいない場合

相続財産管理人の選任による手続きに費用と時間がかかるため、遺言書を作成しておく必要性が高いと考えます。

遺言書の種類

1,自筆証書遺言

自筆証書遺言とは、遺言者が遺言書の全文、日付、氏名を自署し、これに押印することにより作成される遺言です(民法968①)。*自筆証書遺言は簡易に作成できる点にメリットがありますが、内容を吟味しないまま作成した場合には、かえって紛争を誘発する点に注意が必要です。

2,公正証書遺言

公正証書遺言は、公正証書によって行う遺言です(民法969)。遺言者は公証人の前で、遺言内容を口授し、これを公証人が筆記し、所定の手続きを経て、公正証書遺言を作成します。作成に費用は掛かるものの、公証人による遺言の保管により、破棄や改変されるおそれがなく、公証人が内容を確認するため、紛争になるケースが少なくなります。また、家庭裁判の検認手続きも不要です(民法1004②)

3,秘密証書遺言

秘密証書遺言とは、遺言者が作成し封印した遺言書を公証人及び証人に提出することによって、内容を秘密にしながら、公証人が遺言の存在を明らかにする遺言です(民法970)

自筆証書遺言保管制度

自筆証書遺言のデメリットである改変、紛失の防止のためにできた制度です。

1,自筆証書遺言を法務局で保管し、その原本及びデーターを長期間適正に管理されます。

2,家庭裁判所の検認が不要となります。